その2


 
 早速、フィンランディアの聴き比べをしてみよう。

 冒頭は、金管セクションのコラールだ。どの楽器にとっても鳴りやすい音域で書いてある。アタック、息のコントロール、音形の処理、演奏者の基本的能力をあからさまにする。セクショントしてのサウンドはどうか?曲想に応じた音楽的訴えはどうか?

 後半は、学生指揮者とオケの合奏テクニックが聴けるだろう。有名なシンバルのシンコペーション難所はどうだろう・・。

コンサート 会場 指揮 冒頭時間 最終部
1969 第30回定演 観光会館 山下成太郎  −
1975 第2回サマコン 観光会館 河原啓一  51秒 1分14秒
1980 第5回サマコン 厚生年金 斉藤忠直  52秒 1分11秒
1985 第10回サマコン 厚生年金 松浦正純  1分6秒 1分14秒
1991 第16回サマコン 観光会館 尾崎祐司 58秒 1分10秒
1996 第21回サマコン 観光会館 池田宗介 51秒 1分 5秒


 最初に登場するのは、今から28年前1975年の第2回サマコンでの演奏。
指揮は、河原啓一氏。
 冒頭、かなり遅めに感じるが、5小節目から大胆なテンポの動きを持ち、ルバートが生きている。ティンパニの音も効果的。一時、バラける部分もあるが、最後数小節の和音の解決感もまずます。最終コードを痩せずに鳴らし切っていれば、最高だったろう。演奏時間は51秒と最短になっている。

 音程はかなり怪しく、荒い部分もあるが、フィンランディアの曲想にはマッチしてるので、十分魅力的だ。

 後半、ティンパニに先導されて、シンバルを含むシンコペーションのアッチェレランドがすごい、気迫十分。今日的な演奏技術からすれば、中高校生レベルに近い「下手くそ」な音も聴こえてくるのだが、エンディングへ向けての気合と迫力に驚く。最終部のティンパニの「張ったり」も決まっている。オープニングだからなどという手抜きは、少しも感じられない。

 この演奏は、上昇期オケの気負いと活気に満ちている。観光会館で本格的なサマコンをスタートした演奏会だったとのこと。後年、譜面ずら整理に重点が移っていった金大フィルにはない、「荒削りの魅力」だ。フィンランディアのイメージにぴったりの演奏。
    第2回サマコンフィンランディア





 次に登場するのは、5年後の1980年第5回サマコン
指揮は斉藤忠直氏。
年度と回数が合わないのは、途中何回かサマコンを中断しているからだ。

 冒頭、全体に大人しく、メリハリは控えめ、全体トーンはくすんで低めに聞こえる。第2回での演奏に比べ、ハーモニー重視で、汚い音は聴こえない。反面、平板で、生々しい感じは後退している。
 あまり迫力がないのは、会場のせいもありそうだ。全く響きのない厚生年金会館を意識してか、音が不自然に長く、音のスピード感が鈍い。特に冒頭の低音楽器のsfはインパクトが弱い。音楽背後にある、圧政の苦しみ、権力へ反抗などのテーマ性は、薄め。
 ティンパニの音も、少し安っぽく無機的な感じがする。楽器が皮からプラスチック製ヘッドのものに、変わったせいだろうか・・。
 冒頭部演奏時間は、52秒で、先の第2回とほとんど同じ。


 後半、アンサンブルは最後まで見事だ。シンバル部分のアッチェレランドはほとんどない。安全運転とも言える。ヴァイオリン連続シンコペ前の金管のテヌートは押し付けがましく、自然でない。今日的な感覚からすれば抵抗があり、ちょっと古いスタイルか・・。これも、残響の少ないホールを意識してのことだろう。
 県立音楽堂などでの演奏であれば、音は変わってくるのだろう。それでも、最終コラールの長いフレーズの盛り上がりは、満足感まずまず。
 この演奏は、金大フィルで自分が演奏をした初コンサート。懐かしくもあるが、ちょっとガッカリきたのも本音。
    第5回サマコンフィンランディア

                         

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